当院では、県内唯一のガンマナイフセンターを併設し、メスを使わない脳腫瘍除去などの外科手術が可能となっております。また、当院内に併設されている高気圧酸素治療センターとの連携で、脳浮腫や脳動脈瘤などの治療も行っております。
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これらの理学的な所見から、頭蓋骨縫合早期癒合症の軽度三角頭蓋と診断されます。
20年以上も前から、この軽度三角頭蓋に自閉症や多動症の子らが持つ臨床症状を併せ持つ子がおり、軽度三角頭蓋の手術をするとこれらの症状の軽減を見ると学会や論文を発表してきました。最近は、更に自閉症と診断されている子らの多くに軽度三角頭蓋を合併しているのではと思っています。
現在でも、三角頭蓋は形の問題であって、それ以外には特別な問題は生じないとされています。従って、手術(頭蓋形成術)は、見た目に問題(美的)がある典型的な三角頭蓋だけにその形を矯正するための手術が行われてきました。
1994年から数年間は、中等度三角頭蓋の範疇に入ると思われる子らのみに、美容的な矯正の目的で手術を行っていました。偶然にもこの子らは、手術前には言葉の遅れ、かなりの多動や対人的な接触の障害などの発達上の問題も持ち合わせていました。
何とこれら症状が術後に驚くほど軽くなったと保護者らが報告してくるのです。初めて5例目までは、何かの偶然かなとの思いでした。6例目に重篤な臨床症状を持つ子に初めて、意識的にその臨床症状の改善を目的に手術を行いました。その児が術後の2〜3ヶ月間に驚くべき改善を見せたのです。
この症例の後、私自身は、このような臨床症状、特に発達の問題(特に言葉の遅れ、多動や対人関係)と軽度三角頭蓋には関係が有るのではないかと考えるようになりました。
1999年以降、発達障害を持つ子らの療育をしている小児科の先生方の協力を得てこれまでに約574例(2018年12月時点)の手術を行ってきました。
軽度三角頭蓋は整容的(美容的)な意味合いでの手術を必要しない程度と定義しています。美容的な手術を必要とする例を典型的三角頭蓋と定義します。
根本にあるのは軽度三角頭蓋という診断下での手術適応です。
児らの顔貌や頭蓋骨の変形があまりにも軽度のため、三角頭蓋の診断でいいのかということと、これまでの基準で臨床症状を引き起こすとは考え難いというのがコンセンサス(合意)であるから、このような軽度の症例には手術適応がどうかということです。
頭蓋骨縫合早期癒合症の基本的な診断は縫合部の骨の盛り上がり(ridge)を触れることです。
ここで取り上げている軽度三角頭蓋も触診(理学的所見)でridgeを触れることから始めます。これを3D-CTで確かめます。Ridgeが無いと三角頭蓋と診断しておりません。これまで関わってきた症例には、理学的所見や3D-CTや他の神経放射線学的な検査で軽度ではあるのですが、立派に三角頭蓋の特徴的な所見を備えているのです。
これらは2002年の英文の論文に集約されています。
Takeyoshi Shimoji, Satoshi Shimabukuro, Seikichi Sugama, Yasuo Ochiai; Mild trigonocephaly with clinical symptoms: analysis of surgical results in 65 patients. Child’s nerv syst 18: 215-224 2002
手術適応については、前記したように経験的に軽度三角頭蓋と発達の遅れと関係があるとしたことから始まりました。故に、未だ何処の施設でもやっているという手術ではありません。
次に、発達障害は自然経過でもそれなりに改善していくということはよく知られています。故に、軽度三角頭蓋と診断されなければ手術の対象外となります。
手術後の改善はその自然経過ではないのかと疑問を持たれますが、得られる症状の改善は、術後2~3ヶ月以内に得られることが多いことから、我々は手術による良い影響であると確信しています。
学問的にいうとまだまだ証拠に基づいた医療(EBM、evidence based medicineと呼んでいます)の領域ではありません。
今後、非手術例との比較(小児科の島袋先生による非手術例15例との比較は論文になっていますが、数が少なく不十分と自認しています)を十分な症例数で検証していくという課題が残されています。
島袋智志、下地武義、洲鎌盛一;三角頭蓋を伴う発達障害―isolated type対する頭蓋形成術の臨床的意義― 脳と発達 33;487-493 2001
しかし、非手術例との検証をランダム化比較試験というのですが、私の目の前にこの子を良くしてください受診してくる保護者に「研究のためにあなたの子は手術しない側に回ってください」とは口が裂けても言えません。私の臨床家としての倫理観が許さないので、これまで行っていないのです。これに代わり、手術まで約3か月待ってもらい、その間の心理テスト変化と術後3か月と6か月に同様の心理テストを行い、比較するという共同研究を行いました(後述する)。
3D-CTの所見;前頭部と前頭蓋底の狭小化を全例に見ている。これはすなわち内部の前頭葉を締め付けていることを示します。更に、ほとんどの例で凄い指圧痕を認めます。その所見は、頭蓋内圧(脳圧)の亢進を示すということなのです。
この3D-CTの所見は、前頭葉が小さな重箱に押し込められている状態で、その結果頭蓋内圧が亢進する結果となっているのです。初期のころから、このような悪環境の中に脳が置かれている前頭葉を解放したほうがいいのではと主張してきました。
もう一つ重要な所見は、こめかみ部内側の蝶形骨が内側に偏移し、手術中に良く観察されることですが、蝶形骨縁という骨が幅広くて、後方に突き出ていて、前頭葉と側頭葉の間にはまり込んでいる所見をほとんどの例で観察しています。
この蝶形骨縁に押し込まれている前頭葉部分を物まね脳と呼んでいます。この物まね脳は20年ほど前イタリアの研究者により発見されました。最近は心理学の分野で盛んに研究され話題になっています。10数年前からUCLAの心理学者によって、アスペルガー症候群の患者らは、この物まね脳の血流が落ちているという論文が何篇も出るようになりました。
2008年頃まで、私の手術した患児らの自閉的な症状の改善はどうして起きるのか説明できなかったが、これらの論文から推察して、手術にて弁蓋部を圧迫している骨(蝶形骨小翼・大翼・蝶形骨縁)を十分に削除していることで説明が出来ると考えるようになりました。
蝶形骨縁が異常に発達(overgrowth)しているという事実は、1970年代に多くの論文で指摘されており、当時Chicagoの大学に留学したので、これを削除する手技を何度も見ていた。帰国後もずっとこれを踏襲してきた。この手技が症状の改善に大きく貢献していると考えています。
ここで術前と術後の画像の変化を示しておきます。
術中に実際にCamino sensorを用い計測した結果を示します。
まとめますと
1.前頭部の狭小化の改善
2.手術主義の特性による前頭蓋底の拡大
3.弁蓋部の開放
4.頭蓋内圧の低下
頭蓋内圧が低下し、脳機能全般の改善につながり、前頭部の拡大で前頭葉が解放され、特に弁蓋部の開放が自閉的な症状などの改善に繋がっていると考えています。
2017年12月まで574例の手術例があり、1年経過後の評価です。
次は外来での診察結果と保護者の話を聞いての総合評価です。
言葉に関して、術後の改善は術前の状態に依存し、術前に状態の良いほうが術後の改善の度合いも良い結果が出ています。
言葉の理解という点でも改善を見る子が多く、そのことで指示が通りやすくなり、意思の疎通は術前より良くなる傾向が目立ちます。ただし、改善の程度は、やはり術前の言語の理解の状態に大きく依存する為、全員が同じ様な改善を見るとは言えません。
術後に驚かされるのは多動の改善です。入院中から治まってきたという例には事欠きません。
また、対人関係の障害について何らかの変化が見られ、周囲の評価によって親がその改善に気づいたという場合もあります。
いらいら、パニックも術後聞き分けが良くなるので短時間で収まります。
歩けない、平衡バランスの問題など粗大運動の改善も著明です。
睡眠障害については三角頭蓋に携わるようになってから気が付いたので、症例数は少ないです。これも90%以上の改善率です。夜驚と言われる現象も止まる例が多いです。
自傷行為(主に頭を打つ行為)の改善も高率(いずれも90%前後)に見られます(Fig.10)小数ですが、頭痛や嘔吐といった頭蓋内圧亢進症状を呈する児もおり、術後これらの症状は全て消失しています。
具体的な症例を紹介します。
①4歳女児の例
会話が一方通行で多動。犬を叩きつけたり、スーパーマーケットの商品を勝手に取るなど異常行動を起こす。さらに理解も悪い。診断は、軽度の軽度三角頭蓋で結果であった。
手術は2003年8月、4歳のときに施行した。術中の頭蓋内圧測定では24/16 mmHg で平均19mmHg(10mmHg 以下を正常と考えている) であった。
術後症状の変化
術後3カ月 (2003年11月)
会話になっている。発音改善。多動が改善し、映画を見ることができた。更に異常行動が消失してきた。
術後6カ月(2004年2月)かなり普通児になっていた。
2010年2月、10歳で会話はまったく問題なし。友だちもたくさんいる。トランプ遊びも問題なくできる。相変わらす文章問題が苦手である。お母さんの手伝いをしている。普通の子である。
②8歳の女児
A県から受診してきた8歳の女児である。毎月、父親が東京まで通って「自閉症の薬です」と処方される薬を何年も服用していた。 女児の下に2人の男の子が生れると、母親を完全に無視するようになっていた。父親の言うことしか従わない状態だった。言葉が出たり出なかったり、受診時は無言の状態であった。視線が合いにくい、兄弟やほかの子どもとの交流がまったくできない、こだわりが強いなど、まだ症状が強く残っているという。多動は、以前より少しはいいようだが、まだひどい状態であった。
「あれしてはダメ」「これしてはダメ」と抑制されると激しい癇癪を起こして止まるまで長時間かかった。
この女児の状態を昔は“重度精神遅滞”と言った。3D‐CTでは三角頭蓋の軽度の軽度に分類したい症例だ。前頭部や前頭蓋窩の狭小化および多数の指圧痕が存在することで、私は手術に踏み切った。付き添いに来たのは父親のみである。
術後、数日間眼瞼の腫れで両目が開かなかった。その間父親は、娘のこだわりの1つがシール張りであることを思い、毎日のように売店を往復してはシールを買って、娘に与えた。その額は3万円にも達したという。
この手術に対する批判もまだまだ後を絶ちません。
手術を受けずに自然経過に任せるのも一つの選択肢です。
当院を受診されて手術をしないと選択された場合は、その後の経過を知る為に私どもで調査をすることもあると思いますが、その節はご協力をお願いします。
■頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)とは
皆様方は赤ちゃんが誕生する際に、骨の継ぎ目で頭蓋骨が重なり合って誕生することをご存知でしょう。その継ぎ目を頭蓋骨縫合線と呼びます。頭蓋骨縫合線の重要な役目は、生後に頭蓋骨の成長する方向を規定することです。
原則的に、縫合線に対して垂直の方向に頭蓋骨が伸びていきます。
頭蓋骨縫合早期癒合症とは、子どもの頭蓋骨縫合線がお母さんのお腹にいる間に閉じてしまう病態を指します。
頭蓋骨縫合線は何本かあり、それぞれの縫合線が早期癒合することにより特異な頭部の変形を呈します。正式な病名は、閉じた縫合線に早期癒合症とつけて呼びます。一般的には特異な頭の形をしているのでニックネームの病名が付いています。
以下にその代表例を紹介します(Fig1からFig.7を参照して下さい)。
1、 短頭;両側冠状縫合の早期癒合で頭部の前後径が極端に短くなります(Fig.1)
2、 舟状頭;矢状縫合の早期癒合で頭部の前後径が凄く長くなります(Fig.2)